ifの奇跡
世間はGWに突入し、連休が明けるとすぐに病院に行った。


「妊娠10週目です。3ヶ月ですね。」


母と同年代くらいの優しそうなその女医さんの声が重く私にのしかかる。

本来なら嬉しいと喜ぶべきことなのに…

今の私にはそう感じることができなかった。


“ どうしよう、どうしたらいいの… ”


これから病気の母を抱えて、私も今の失業保険を貰い終えたら仕事を探さなきゃいけない。

そう思っていた矢先だったから。


だけど、不思議なもので自分のお腹から聞こえて来た赤ちゃんの心音とエコー写真に映された小さな赤ちゃんの姿を目の当たりして、間違いなくここにいる新しい命を、我が子を可愛いと…愛しいと感じていた。

現実は厳しいけど、私も腹をくくらなきゃいけないんだと覚悟を決めた。

だけど、まだ社会人になったばかりで必死に仕事を覚えている冬吾にこの事実をどうやって伝えたらいいのか分からなかった。


私の中では母親になる覚悟も決まったとは言え、冬吾もそうだとは限らない。

それに一番の問題は、母がいる以上私はここから離れることはできないという事。

それが、何を意味しているのか…私自身よく分かっていたし、彼の人生を犠牲にするつもりもなかった。

1人で悩んだ…たくさん悩んだ。けど…

どれが一番正しいのかなんて分からなくて……冬吾にも母にも言えないまま時間だけが過ぎて行った。



だけど私が…
この2人に事実を打ち明けることは永遠に…無くなってしまった。

たったわずかの間しか愛してあげる事が出来なかった我が子が…お腹の中からいなくなった。
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