ifの奇跡
「随分長い間行ってないなら、懐かしいんじゃないの?今度一緒に行ってみる?」


驚いた………彼の口からそんな言葉が出てくるなんて。

だけど、あの場所にこの人と行くなんて…きっと無理だと思う。


「う…ん。まぁそのうち機会があれば…ね。」


笑顔で曖昧に誤魔化したのが気に入らなかったのか…彼の口からこぼれた言葉に心臓がドキリと嫌な音を立てた。


「そう?…まぁ、久しぶりの東京なら会いたい人もいるだろうし、僕と行くよりも君1人の方が都合がいいか…。」


淡々と無表情で言われたその言葉に、なぜか棘のようなものを感じ、一瞬だけ怖いとさえ思った。

彼が私の過去を知っているはずないのに、なぜだろう。


「そんな言い方しないで…。会いたい人なんて…美沙くらいだ…よ。」


震えそうになる声を搾り出し言った言葉に、


「そう…僕に遠慮しなくてもいいのに。」


そんな意味不明な言葉が返って来て、私はもうその言葉に対して何も返せなかった。


「…キッチンも後少しだから、このままやっちゃうね。」


取り繕うように声をかけ、止めていた手を動かし始めた。

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