ifの奇跡
“ コンコン ”

その音に後ろを振り返るとお風呂から出たばかりの彼が立っていた。

髪はまだしっとりと濡れているようだった。


「君も今日はもうそのくらいにして、お風呂に入って来たら?それにこの調子だと、今日ここで寝るのは無理そうだし…今夜は僕の部屋に来るといいよ。」


ニッコリと優しい笑顔でそう言ってくれた彼。

今日の彼は確かにいつもと違う…。

だけど、この引っ越しが決まってからの彼は以前に比べて私を求めて来るようになった。


「うん、そうだね。」

「明日は休みだし、僕も手伝ってあげられるから。」

「…あ、りがとう。」


彼にはあの箱は見られることはないと思う。あれは一番先にもう誰の目にも触れない真っ暗な場所にしまい込んだから。

まだまだ片付かない段ボールの中から、下着とパジャマを取り出すと、私は部屋の電気を消して浴室に向かった。

新しいお家での初めての夜を彼と同じ布団で過ごすことになるとは……正直思っていなかった。

どうして彼は最近、私を頻繁に抱くようになったのだろう?

一時期は、全く触れようとさえしなかったのに……。
< 88 / 151 >

この作品をシェア

pagetop