ifの奇跡
どちら様…なんて……相手にはカメラに映った私が見えているはずなのに。

私を知らないはずのないその人の声が、静かな廊下に響いた。


『5階に新しく越して来た中村と申します。引越しの…』


ご挨拶に…って続くはずの言葉は、ブツリッといきなり途切れたインターホンのマイクから中の人に届くことはなかった。

感じわる…相変わらずなその人の態度にカチンとと来たものの、ここでうまくやって行くためには穏便に済ませるしかない。

玄関に近づいて来た足音に…彼女との久しぶりの対面も後数秒に迫り、


ガチャ


という音がした直後、住人であるその彼女が見えた。

…………


相変わらずな、けばけばしい化粧に鼻をつく香水の匂い……。

一言で言い表せば、綺麗で派手なその女性。

だけど、私の目には綺麗なんて風には映っていない。

綺麗よりも…怖い人。どちらかと言うと、その印象の方が強かった。

彼女は、ドアを半分開けただけで愛想笑いを浮かべるわけもなくただ私を蛇のようなその目でジッとりと見下ろしていた。


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