ifの奇跡
「…お久しぶりです。中村です。この度、主人と5階に越して来ましたので挨拶に伺いました。これ、つまらないものですが。」


定番の挨拶をすると手にしていた袋を手渡した。

早々に立ち去ろうと思ったその時、


「…そう。あの人と一緒にきたんだ。また宜しくね…竹中さん。」

「え…?」


久しく呼ばれる事のなかった、その呼び名に更に不快感が増していく。


「あらごめんなさい。今は中村さんだったわね…。」


全く笑っていない目をした彼女が笑いながら言った。

彼のことを何の戸惑いもなく妻である私に “ あの人 ” といった彼女…。

あの蛇のようにまとわりつく目が嫌。

彼女の全てに言い表す事のできない嫌悪感を感じていた。

彼女は一応私の先輩にあたる人で、私が彼と結婚するまで一緒に働いていた。


今もまだ、 2人の関係が続いているかどうかはわからない。

だけど何かが起こるような予感はしていた…。
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