諦めて恋だと気づく



 美紗は恋た恋だよ恋ですよ!と煩いが、私は恋なのかさえわからないまま。

 確かに彼の雰囲気は好きだ。喋っている姿を見たことがないし、もちろん、私は彼と喋ったことがない。ただ、見かけるっていうだけ。私が知る男子は、流行りの芸人の真似をしていたり、ゲームの話をしていたりするような同級生ばかりだ。

 彼は、そんな同級生の男子とは少し違って見える。



 彼に私のこと知っているか聞いたら、さあ?いたような、くらいの存在だと思う。

 
 私は近すぎず遠すぎずという距離をとることが多いし、近くになったら何も気にしてませんから、というような意味のわからない意地をはる。別に、たまたまだし、と。
 考えると本当に意味不明だ。席なんてどこだっていいのに。


 そんなことを思うのは何故?
 恋というものを、少し恥ずかしく思っているからかもしれない。


 人を好きになることが、からかわれることになるとか、そういう過去のトラウマのようなものからきているのではないか。あいつお前のことが好きだってよー、みたいないらないお節介。そしてうわさ。
 そんな目立つような存在ではなかったけど、目立つことは遠慮したかった。



 話したことないのに、好きになるもの?


 声すら聞いたことない。名前すら知らない。好きかどうかも怪しい。

 ただ雰囲気が、気になるだけで。

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