よくばりな恋 〜sweet sweet Valentine〜
bitter
去年まで、恋愛偏差値低めのわたしには縁のなかった行事のひとつ、バレンタイン。
せいぜい院長先生と野口さんや長瀬さんに義理チョコを作って渡すくらいのことだった。
今年は違う。
曲がりなりにも恋人という存在ができた。
それも何もかもが極上の。
バレンタイン当日の今日、勤務が終わったら彼の部屋で過ごす予定だ。
数日前にスマホに送られてきたメッセージ。
『鍋が食いたい』
彼のそれはいつもあっさりと簡潔だ。
けれどわたしは知っている。
彼の愛情も情熱も体温でさえ。
いつも受け取りきれないほどの熱を与えてくれる彼に『初心者だから』と甘えないで、持てる気持ちを全て返したいと思う。
例えそれが不器用な表現だとしても。
「なあんか、更衣室からもう甘い匂いやわ」
朝、部屋に入ってきた野口さんの開口一番。
「そりゃあねぇ、みんなお目当てのドクターとかに気合い入れて作ったり買ったりしてるやろうからねぇ」
長瀬さんが笑う。
野口さんが後ろからわたしの首元に腕を回してきた。
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