不思議な眼鏡くん
第一章
一
「あっ、やばっ」
鈴木 咲(すずき さき)は、シュレッダーの回転する歯に飲み込まれていく書類を、懸命に引っ張った。今にも消えてしまいそうな紙の隅をつまんだが、焦るばかりでうまくいかない。
やがてシュレッダーの回転音が消えて、静寂が残った。手元には、およそ五センチほどを残して細く裁断された四分の一程度の書類。
背中を汗が流れ落ちる。
どうしよう……。
咲はそのちぎれた書類を胸に抱くと、そっと廊下に出る。手が震えるほど緊張していた。こんなミスは入社以来初めてだ。
トイレの個室に入ると、再び無残なその書類を見た。
間違いない。昨日、百貨店から預かってきた、改善要望書だ。コピーは取ってない。紙でもらったからデータもない。
咲は唇を噛んだ。
『こちらの手違いで、要望書を紛失いたしましたので、再度いただけますでしょうか』
そうお願いするしかないけれど。
咲は頭を抱える。
できない、そんなこと。私たちのチームが謝罪して、やっともらった改善要望書だ。これから信頼を取り戻そうという、そんな時に再びこんなミス。
脳裏に芝塚(しばづか)課長の姿が浮かんだ。咲と一緒に、先方に頭を下げてくれた。咲のチームを怒鳴り散らすことはせず、今後どうするべきかを一緒に考えてくれたのに。
咲は下唇を噛む。それから小さく「よしっ」と声を出した。
ずっとトイレにこもっていても仕方がない。自分でなんとかしなくちゃ。
咲は書類を小さく折り畳むと、ジャケットのポケットに押し込んだ。
鈴木 咲(すずき さき)は、シュレッダーの回転する歯に飲み込まれていく書類を、懸命に引っ張った。今にも消えてしまいそうな紙の隅をつまんだが、焦るばかりでうまくいかない。
やがてシュレッダーの回転音が消えて、静寂が残った。手元には、およそ五センチほどを残して細く裁断された四分の一程度の書類。
背中を汗が流れ落ちる。
どうしよう……。
咲はそのちぎれた書類を胸に抱くと、そっと廊下に出る。手が震えるほど緊張していた。こんなミスは入社以来初めてだ。
トイレの個室に入ると、再び無残なその書類を見た。
間違いない。昨日、百貨店から預かってきた、改善要望書だ。コピーは取ってない。紙でもらったからデータもない。
咲は唇を噛んだ。
『こちらの手違いで、要望書を紛失いたしましたので、再度いただけますでしょうか』
そうお願いするしかないけれど。
咲は頭を抱える。
できない、そんなこと。私たちのチームが謝罪して、やっともらった改善要望書だ。これから信頼を取り戻そうという、そんな時に再びこんなミス。
脳裏に芝塚(しばづか)課長の姿が浮かんだ。咲と一緒に、先方に頭を下げてくれた。咲のチームを怒鳴り散らすことはせず、今後どうするべきかを一緒に考えてくれたのに。
咲は下唇を噛む。それから小さく「よしっ」と声を出した。
ずっとトイレにこもっていても仕方がない。自分でなんとかしなくちゃ。
咲は書類を小さく折り畳むと、ジャケットのポケットに押し込んだ。
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