不思議な眼鏡くん
「ウケる」

突然、横から小さい声が聞こえた気がした。とっさに横を向くと、いつものようにパソコンに向かってる響がいるだけ。

『ウケる』って、今田中くんが言った?

咲は首をかしげる。

田中くんはそんなキャラじゃないし……。空耳かな?

視線に気づいて、響が咲を見る。

「なんですか」
「……ううん、なんでもない」

響は再びパソコンに向く。

捉えどころのない後輩。眼鏡にパソコンの白い明かりが映っている。

前髪が鬱陶しくないのかしら、こんなに眼鏡にかかってて。

響は入社してすぐ、咲の下についた。教育係をしたのは二ヶ月間だったが、響のことはよくわからないままだった。

とにかく自分のことは喋らない。こちらから話しかけても、最低限の言葉しか返ってこない。男性と会話することが苦手な咲にとっては、ある意味しゃべらない響は楽だったが、本当にこれでいいのだろうか。これから新しいプロジェクトが始まるのに、響と信頼関係を築けぬままやっていけるのだろうか。
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