不思議な眼鏡くん
「鈴木、そっちはどうだ?」
芝塚課長に声をかけられた。

「順調です」
咲は背筋を伸ばし、笑顔を見せた。

「頼もしいな」
芝塚課長が微笑んだ。

「田中はどうしてる? あいつは初めてのショーだろう?」

響の名前が出て、咲の心がちくんと痛む。それでも感情を見せないように頑張った。

「配布パンフレットの確認をしてもらっていますが、落ち着いているようです」
「そうか。大物だな、あいつ」

芝塚課長はポケットに手を入れた。

夜を響と過ごしたからといって、二人の関係が変わることはなかった。上司と部下として、節度ある態度で接している。

響は相変わらず無愛想で、何を考えているかわからない。咲も一人の部下として接するよう努めた。
あんなに触れ合って、笑いあって、キスしあったけれど、それでも一夜だけの関係なのだ。咲は何度も自分に言い聞かせた。

思い出にできるのなら、いい経験だったんだわ。
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