不思議な眼鏡くん
「鈴木さん」
声をかけられて振り向くと、響がパンフレットの束を抱えて立っていた。

「終わった?」
「はい」
「プレスリリースも挟んだ?」
「はい」
「じゃあ、座席に並べて。もうすぐリハが始まるから」

響は頷いて、会場の方へ歩いていく。

響は、抱き寄せる力が強かった。細いと思っていた腕が実はたくましい。手のひらを握られると安心して、キスをされると愛されてるんじゃないかと勘違いしそうになった。

「あ、また」
咲は頭を振った。

思い出にするのは苦しく、難しい。でも自分で決めたのだから、貫かなくては。

もしもう一度。

咲の頭によぎる。

もしもう一度誘われても、断れるだろうか。

咲は大きく一つため息をついた。

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