不思議な眼鏡くん
会場は中央にランウェイ。それを挟むようにたくさんのパイプ椅子が並べられている。舞台監督が「そろそろ、リハ始めます」と大声で叫んだ。

照明が暗くなり、スポットライトが舞台に当たる。咲は戸口の近くにたって、リハーサルを眺めた。

若者向けのライン。ガーリーな中にも少し大人を感じさせるようなデザインだ。デートで着てほしいと、演出もデート風に、男性モデルと腕を組んで歩くことになってる。

咲は、長身のモデルたちが、颯爽と歩くのを眺めた。

樹が隣に立つ。
「モデルって、本当に八頭身なんだな。同じ人間じゃないみたいだ」

「そうね」
咲は笑った。

そこでふと、気がついた。
ランウェイの真ん中を歩く男性モデルの様子がどこかおかしい。

「あっ」
咲は思わず声を上げる。

ガターンッ。

すごい音がして、モデルの姿がランウェイから突如消えた。

ざわめき。

咲は、反射的にモデルが消えたところに駆けよった。パイプ椅子とランウェイの間を覗き込む。

モデルが倒れている。

「大丈夫ですか?」
咲はモデルの肩に手を置いた。

意識がない。

ぞくっと背筋が冷えた。

「救護っ」
舞台監督が叫んだ。

咲は後ろにさがって、手当てをされるモデルを呆然と見つめた。

「昏睡状態なんで、救急車呼びます」

開場二時間前に、トラブルが発生してしまった。
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