不思議な眼鏡くん
男性モデルが一人いなくなった。

モデルは幸い、救急車に乗るころには意識を取り戻していたが、高熱状態が続いている。

どうやら無理を押して、現場にきていたらしい。オーディションで勝ち取った仕事を失いたくなかったのだろう。

騒々しいバックステージで、舞台監督が腕を組んだ。

「どうするかな」
衣装とモデルの出演リストを睨むように見つめる。

「今から新しいモデルさん、一人呼べないんですか?」
咲は尋ねた。

「いや、雪も降りだしてるし、今からは無理だろうな。でも」
うーんと唸る。

「でも、衣装チェンジのことを考えたら、やっぱり一人足りない。これをショーから削るか」

舞台監督は、衣装リストの幾つかを指差した。

「外したくないな」
芝塚課長が考えるように腰に手をあてた。

ちづが「じゃあ、芝塚課長が出られたら?」と声を上げた。

「えっ、なに言ってるんだよ」
芝塚課長が、驚いた声を出した。

「だって、芝塚課長って学生のときモデルのバイトしてたって聞きましたよ」
「お前、何で知ってるんだ」
「有名です」

ちづがしたり顔で言った。

舞台監督が芝塚課長を頭からつま先まで眺める。

「いやあ、ちょっとがっしりしすぎてるな」
残念そうに言った。

「身長は文句ないけど、あのモデルはかなりの細身だったんだよ。衣装が入らない」

「あの子なら」
舞台監督が、芝塚課長の後ろに立っていた響を指差す。

「あの子なら、オッケー」
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