不思議な眼鏡くん
「じゃあ、そこで写真とって」

ショーまであと四十分。ヘアメイクを済ませ衣装を着替えたモデルたちが、舞台裏で代わる代わる写真を撮られる。

「やれるな」
芝塚課長の声が聞こえたので、咲は振り返った。

「はい」
響が立っていた。

横にいたちづが息を飲む。咲も思わず「すごい」と声を漏らした。

いつも重く額にかかっていた前髪は綺麗に撫でつけられて、聡明そうな広い額が見えている。凛々しい眉に、あの、人を魅了する綺麗な瞳が見えた。

「こいつ、いつも伊達メガネかけてるんだよ」
芝塚課長が呆れたような声を出した。

「視力だけが気がかりだったけど、問題なしだな」
芝塚課長が満足げにそう言った。

「じゃあ、写真、次!」
カメラマンが怒鳴った。

「いってこい」
「はい」

響は可愛らしい女性モデルの隣で、カメラの前に立った。いくつかカメラマンの要望に合わせてポーズをとる。

フラッシュの瞬きの中、腕を組み、笑いあって、まるで本当の恋人同士のように見えた。

「田中って、器用なやつだな」
芝塚課長が言った。

「そうですね」
咲は頷いた。

胸がちぎれるほど痛い。

あの笑顔が、咲以外の誰かに向けられていることに、狂おしいほど嫉妬した。仕事のためにやれと自分が怒鳴って、自分がこの現実に堪えている。

人を好きになるって、しんどい。

咲は、息を一つ静かにはいた。
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