不思議な眼鏡くん

夜八時。ショーが終わったあと、会社へ戻ってきた。
みんなクタクタだったけれど、どこか高揚感が残っている。

「社内広報が、営業部で撮った今日の写真が欲しいって言ってました」
ちづが言う。

「了解。今、整理するね」
咲は自分のカメラから、パソコンへデータを取り込んだ。取り込まれた順から、モニタに表示される。

響の笑っている写真が目に飛び込んできた。

隣を見ると、まだ舞台から降りたままの顔をしている。服だけスーツに変わった。

「化けたね」
樹が響をまじまじと見つめた。「なんで、伊達眼鏡なんだ? ファッション?」

「別に、意味はありません」
取りつくしまもない、答え。

樹は肩をすくめた。
「容貌は変わっても、中身は変わんねーか」

「今日、飲みに行こう」
芝塚課長が言った。「成功を祝って」

「いいですね」
ちづが嬉しそうに賛成する。

「俺は遠慮しておきます」
響が言った。

「のりが悪いなあ」
樹が顔をしかめる。「鈴木は行くよな」

「う……ん」
咲はちらっと横を見た。

「遅れていくわ。写真の仕分けして、早めに渡したいから」
「明日でもいいんじゃないのか、それ」
樹が訝しげに尋ねた。

「明日には明日の仕事があるの」
咲はそう曖昧に笑った。

「じゃあ、鈴木は終わったら来いな」
芝塚課長はポンと咲の肩をたたくと、樹とちづを連れて営業部を出て行った。
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