不思議な眼鏡くん
目を開けると、響が見つめていた。温かなライトの色が、頬を照らしている。咲はベッドで、柔らかく暖かい布団に包まれていた。

「わたし……」
咲は周りを見回した。

「俺の部屋。会社から運んだ」

響の腕が咲の体に回され、抱き寄せられる。響は上半身裸だったので、滑らかな肌が頬に当たった。

咲は、だんだん自分が何をしたのかを思い出してきた。

「会社で、あんなこと」
咲の顔に、かあっと血がのぼる。

響が咲の髪をすく。
「かわいい」

そういえば。

咲は思い出した。
とっさに、響を見上げる。響の顔は枕に半分ほど埋まっていた。

「何?」
響の唇が微笑んでいる。

「田中くん、わたしのこと……」

好きって言ったよね。

「好きだよ」
響が咲の心の声に応えた。

咲の生え際に軽くキスをして、それから「最初からずっと好きだけど」と言った。

「え、だって」

趣味はセックスだから、しようか、みたいなそんな流れじゃなかった?

「こんな風に、向き合うつもりはなかった。ただ、咲さんの記憶に残りたくて」
「どういうこと?」

響が小さく笑う。

「最初の男って、忘れられないって言うだろ。だから、咲さんの最初の男になれれば、それでよかったんだけど」

一つ息を吐く。

「一度抱いたら、どうしても欲張りたくなる」

それは自分の感情をどうしたらいいかわからない、そんなため息にも似た一言だった。
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