不思議な眼鏡くん

ほぼ毎日、どちらかの部屋で会っている。お互いの鍵を交換して、銀のイルカのキーホルダーをつけた。

咲の部屋には、徐々に響のものが増えていき、響の部屋には咲のものが。咲の部屋のクローゼットにかかる響のシャツを見ると、こそばゆい気持ちになった。

ただ響の所持品を見ても、響がどんな人生を送ってきたのかは想像できない。

家族の写真はない。
どんな友達がいるのかもわからない。

響のスマホにメールが送られてきたことも、ましてや電話がかかってきたこともないように思える。

咲には、目の前の響という存在が、たまに曖昧に思える時があった。


午後八時。
そろそろ帰ろうかと支度をしていると「鈴木」と芝塚課長から声をかけられた。

「はい」
芝塚課長のデスクに向かった。

「今夜、登戸常務から誘いがあったんだ。エースを紹介してくれっていう話なんだが、鈴木の予定はどうだ?」

登戸常務は、人事を担当している人だ。咲の気持ちが引き締まる。

「はい、大丈夫です」
「じゃあ、今から出よう

芝塚課長が支度をしている間、慌てて咲はメールを打った。

『今夜、常務と飲み会になっちゃった。遅くなるからご飯は待たないで』

すぐに返信がくる。

『了解。がんばってきて』

咲はほっとした。

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