不思議な眼鏡くん
席に戻ると、響とちづは外回りに行っていなかった。
安堵のため息。
ふと視線を感じて目を上げると、樹と目があった。
「……どうした?」
樹が尋ねた。
「どうもしてないよ、大丈夫」
咲は笑顔を返したが、樹の眉間はより深くなった。
樹は椅子を立ち上がり、響の席に座った。肩肘をデスクに乗せ、考えるように咲を見る。
「……何?」
咲は落ち着かない気持ちになった。
「鈴木さあ、なんかあっただろう?」
「別に……」
「田中と幸せそうだったのに、突然よそよそしくなった」
咲は驚いた。自分ではずっと変わらない態度でいたと思っていたのに。
「あいつ、お前を殴ったりするのか?」
「え!」
咲はびっくりして声を上げた。
「まさか」
「だって、田中のこと怖がってるように見える」
咲は手を握りしめた。
傍目から見てもわかるのなら、響はきっと気づいている。
咲が響を恐れていること。
「なんか問題があるなら、相談しろ」
樹が安心させるように微笑んだ。
西田くんなら、入館リストを書かなくても会社に入れる方法知ってるかも。
咲の喉元まで、言葉が出かかる。
『響くんの周りで起こるたくさんの不思議は、ただの偶然だよね?』