不思議な眼鏡くん
響のマンションに到着した。咲はエレベーターのボタンを押して、大きく深呼吸した。
何から聞く?
どうやって?
でも。
咲のくだらない杞憂を、響は笑い飛ばしてくれるだろう。
バッグから合鍵を取り出し、部屋に入る。
「ただいま」
咲は声をかけた。
リビングから足音が聞こえ、廊下のドアが開いた。
「おかえり」
細く長いシルエット。すでにパーカーとスウェットという姿になっている。
「早かったね」
響が言う。
「うん」
咲は頷いて、靴を脱いだ。
「ごはんは? 残ってるよ」
「ありがとう」
咲はコートを脱いで、ハンガーにかける。
どのタイミングで聞く? どうやって……話を持って行こう。
「咲さん」
「うん?」
「何に気づいた?」
咲の手が止まった。
「え?」
思わず振り返る。
響はソファの横に立っていた。黒い瞳が咲を射るように見つめる。
「気づいたって……」
咲はごくんと唾を飲み込んだ。
動けない。