不思議な眼鏡くん

咲は響の席の引き出しを勢いよく開けた。

ない。
何も入ってない。

血の気が引くのがわかった。体から力が抜けて、強く机に膝を打つ。

「ちょっ、主任!」
ちづが走って咲を支えた。

みんなでわたしを騙してる? ドッキリか何かで。

「座ってください。顔が真っ青ですよ」
ちづに言われて、咲はなんとか椅子に座った。

「田中さんって、誰ですか? 社内の人なら、写真があればわかるかも」

写真。そうだ! ファッションショーの写真。

咲は慌ててパソコンを起動した。ファッションショーの写真をスライドする。

あった。

胸に安堵が広がる。

響がモデルと腕を組んで、笑顔でいる。

いる。よかった。

「ほら、これ」
咲はモニタを指さした。「田中くんでしょ?」

ちづは腕を組んで、首をかしげる。
「主任、これ、モデルの方ですよ」

「ちが……」
咲は再びパニックに陥った。

「覚えてない? 当日モデルさんが倒れちゃって、代わりに田中くんが」
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