不思議な眼鏡くん

「ちょっと、鍵!」
後ろで管理人が叫んだのに気づいたが、咲は振り返ることをしなかった。

違う人かもしれない。
所有者が響だとは限らない。

でも、でも、でも。

冷たい空気の中、走った。似た背丈の人を必死に探す。

いないかも。
もうあの力を使って、遠くへ行ってしまったかも。

脈がどんどん早くなり、冷たい風が肺を痙攣させる。

不思議な力を持つ、不思議な人。
その力に気づいたときは、心底怖かった。
辻褄の合わない現象に動揺して、あの人を避けてしまった。
でも、彼はずっとあの力でわたしを助けてくれていたんだ。

裏道の坂を駆け下りて、イルミネーションが青く光る大通りに飛び出した。

濃紺の空に、青と白のきらめき。
長く長く坂の上に続いていく。

咲は肩で息をして、たくさんの人混みの中に目を凝らした。

行かないで。
お願い。

ふと、視界に何かが入った。

咲は慌てて目を彷徨わせる。

今わたし、何を見た?
銀色に光る、何かが……。


< 162 / 165 >

この作品をシェア

pagetop