不思議な眼鏡くん
「ちょっと、鍵!」
後ろで管理人が叫んだのに気づいたが、咲は振り返ることをしなかった。
違う人かもしれない。
所有者が響だとは限らない。
でも、でも、でも。
冷たい空気の中、走った。似た背丈の人を必死に探す。
いないかも。
もうあの力を使って、遠くへ行ってしまったかも。
脈がどんどん早くなり、冷たい風が肺を痙攣させる。
不思議な力を持つ、不思議な人。
その力に気づいたときは、心底怖かった。
辻褄の合わない現象に動揺して、あの人を避けてしまった。
でも、彼はずっとあの力でわたしを助けてくれていたんだ。
裏道の坂を駆け下りて、イルミネーションが青く光る大通りに飛び出した。
濃紺の空に、青と白のきらめき。
長く長く坂の上に続いていく。
咲は肩で息をして、たくさんの人混みの中に目を凝らした。
行かないで。
お願い。
ふと、視界に何かが入った。
咲は慌てて目を彷徨わせる。
今わたし、何を見た?
銀色に光る、何かが……。