不思議な眼鏡くん
「じゃあ、寝よっか」
響がベッドの布団をはいだ。

咲はベッドから一メートルほど離れたところから動けない。響と同じタオル地のガウンを羽織って、裸足でアクリルのカーペットの上に立ち尽くしている。

なんでこの部屋は、ソファとかないのかしら。ベッドとテレビしかない。

「わたしは床で寝ます」
「こんなベッド広いのに?」
まるで子供のような無邪気さで尋ねてくる。先ほどの妖艶な雰囲気はまったくない。

「でも、あまりにも……」
言葉に詰まる。
セックスが趣味とかいう、やばそうな人の隣で眠れるほど、男慣れしていない。

突然、腕をうわっと引っ張られた。そのままベッドの上に転がる。

咲は驚きすぎて、目を見開いた。

今、何に引っ張られた? 田中くんに? いやいや。

ーーこの人、ベッドの上から動いてないし。

「つまづいた?」
頭上から響の声が降ってきた。

慌てて振り返ると、響が見下ろしている。
青い照明を浴びて、肩から首にかけてまるで海の中にいるみたいで。
表情は影になって見えないが、先ほどの雰囲気とはまた違う。

もう、子供じゃない。

「緊張するなって。何もしないよ」
「……本当?」
「本当」
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