不思議な眼鏡くん
見上げると、目が合った。

「キスしてもいい?」
響が微笑む。

返事ができない。
信じられないことに、キスしてほしいって、思っている自分がいる。

何も言わないでいると、響は咲の手を握りしめた。
少し体重をかけて、動けないようにする。

でも本当に嫌なら逃げられるぐらいの、ちょっとした束縛。

響の顔が近づいた。
咲は抵抗しなかった。そのまま瞳を閉じる。

唇が触れると、びりっと体に電気が走った。でも優しくて、大事にされている気がする。

もう一度。
もう一度。
もう一度。

触れるたびに、時間が長くなる。

「少し入らせて」
唇を離すときに、響が言った。

「入るって?」
少し不安になって、押さえつけられた手に力が入った。

「唇を少し緩めてほしい。それだけ」
響はそう言うと、再び唇を重ねた。

深いキス。溶け合うみたいで、気持ちいい。
ちっとも嫌じゃない。

「もう、俺を、好きになればいいのに」

唇を離すと、再びまぶたにキス。
安心できるように微笑んで。

それから響は腕を伸ばして、枕元の照明を切った。

窓もないから、真っ暗で。でも不思議と怖い気持ちはしなかった。

「おやすみ、鈴木さん」
「うん」

胸に抱かれたまま、心臓が規則正しく動く音を感じる。

そしてやがて、穏やかな眠りについたのだった。
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