不思議な眼鏡くん
「お先に失礼します」
ちづが立ち上がった。
「おつかれさま」
咲はそう言って、髪を耳にかける。
「鈴木主任はおかえりにならないんですか?」
「もうちょっと」
雑念に邪魔されて、手をつけてないプレゼン資料がある。今日中になんとかまとめておきたい。
樹は外回り。おそらく直帰だろう。
横を見た。
響はまだいる。
「田中くんは?」
ちづがカバンを肩にかけながら言った。
「もう帰ります」
こちらを見ようともしない。パソコンをシャットダウンしながら、響が言った。
咲の肩から力が抜ける。
よかった。一人になれる。
「ご飯食べてく?」
ちづがごく気軽な感じで誘った。
「いいですよ」
響は頷いた。
咲はぐっと息を飲む。
いくんだ。ご飯。
「じゃあ、主任。おつかれさまでした」
二人が連れ立って営業部を出て行く。
咲はその後ろ姿を目で追いながら、もやもやとした気持ちを鎮めようと何度か息を吸った。
同僚とごはんを食べにいく。ごくごく、普通のこと。
でも、食事のとき、あのメガネを取るんだろうか。
横山さんにも、あの瞳で、笑いかけるんだろうか。
『キスしてもいい?』
そうやって、あの声で、誘うんだろうか。
「どうした、わたし。ほんとにしょうがないっ」
小さく自分に悪態を吐く。
こんな自分が耐えられない。何事も仕事優先できた。仕事をおろそかにしたことはない。
でも今日一日、心を占めていたのは、昨晩のあの瞳。
ちづが立ち上がった。
「おつかれさま」
咲はそう言って、髪を耳にかける。
「鈴木主任はおかえりにならないんですか?」
「もうちょっと」
雑念に邪魔されて、手をつけてないプレゼン資料がある。今日中になんとかまとめておきたい。
樹は外回り。おそらく直帰だろう。
横を見た。
響はまだいる。
「田中くんは?」
ちづがカバンを肩にかけながら言った。
「もう帰ります」
こちらを見ようともしない。パソコンをシャットダウンしながら、響が言った。
咲の肩から力が抜ける。
よかった。一人になれる。
「ご飯食べてく?」
ちづがごく気軽な感じで誘った。
「いいですよ」
響は頷いた。
咲はぐっと息を飲む。
いくんだ。ご飯。
「じゃあ、主任。おつかれさまでした」
二人が連れ立って営業部を出て行く。
咲はその後ろ姿を目で追いながら、もやもやとした気持ちを鎮めようと何度か息を吸った。
同僚とごはんを食べにいく。ごくごく、普通のこと。
でも、食事のとき、あのメガネを取るんだろうか。
横山さんにも、あの瞳で、笑いかけるんだろうか。
『キスしてもいい?』
そうやって、あの声で、誘うんだろうか。
「どうした、わたし。ほんとにしょうがないっ」
小さく自分に悪態を吐く。
こんな自分が耐えられない。何事も仕事優先できた。仕事をおろそかにしたことはない。
でも今日一日、心を占めていたのは、昨晩のあの瞳。