不思議な眼鏡くん
「あいつは、本当はどんな感じなんだ? 鈴木は教育係だったし、上司だろ。もしかして本当はすごい饒舌で、愛想がいいとか、そんなことあるのかなあ」

芝塚課長が首をかしげる。

どうなんだろう。本当のところは。教育係の間は一緒に得意先に行ったりもしたけれど、そのときは特に愛想がいいわけでもなかった。その後、得意先の引き継ぎをした後は、一緒に出ることはほとんどない。

どんな営業をしているのか……まさか、趣味を生かした営業とか。

そりゃ、大問題だし。

「すみません、ちょっとわからないです」
咲は頭を下げた。「監督不行き届きです」

そう言うと「ああ、いいんだよ、別に」と芝塚課長が笑う。

「得意先とのトラブルもないしな。ちょっと興味があって」
芝塚課長が椅子から立ち上がった。

「俺は帰るけど、飯でもいくか?」
その誘いに、咲の胸が高鳴ったが、目の前の仕事が頭をよぎる。

「お誘いは嬉しいんですけど、まだ仕事があるので」
「そうか。まあ、あんまり遅くなるなよ」

芝塚課長はそう言うと、軽く手を上げて営業部を出て行く。

「煩悩退散」
咲は自分のほっぺたをパシンと叩くと、モニターに向かった。
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