不思議な眼鏡くん
「どうしたんですか」

突然右から声がかかって、咲はガバッと身体を起こした。

左手にコーヒーを持った響が、咲を見下ろしていた。メガネに前髪がかかる。
でも、昼間には見せなかった、口元に笑み。

「ご飯行ったんじゃないの?」
「行きましたよ。それで、帰って来ました。まだやることあるから」

響はジャケットを脱いで机に置く。そして、椅子を引いて座った。

響の気配に、咲はほっと安堵した。なぜかわからない。状況は変わらないのに、一人きりじゃないということが、咲を勇気付ける。

ネクタイを緩め、シャツのボタンを右手で外す。それからコーヒーを一口。

今日は、趣味の、アレ、したくなかったのかな。

響の横顔を見ながらぼんやりと考えた。

「誰彼構わず、ベッドに誘ったりはしませんよ」
突然響がそう言ったので、咲は慌てた。思わず口を押さえる。

無意識に考えを口にしたのかも。

響が笑う。
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