不思議な眼鏡くん
響が自分のパソコンの電源を入れる。

咲はそれを見て、はっと自分の窮地を思い出した。

「そうか、やらなくちゃ」
そう言うと、立ち上がって向かいの樹のデスクへと回った。パソコンの電源を入れる。

「西田さんのパソコンで何するんですか?」
響が尋ねた。

「わたしの、こわれちゃったみたいで」
咲はなるべくがっかりした様子を見せないように言った。頼れる上司はこんなことで動揺したりしない。

「データは?」
「……さっき作ってたのだけ、ダメになっちゃったけど。もう一度やればいいから」
咲は言った。

「どんくらい前ですか?」
「なにが?」
「パソコンこわれたのは」
「ああ、ものの十分前かしら」

咲がそう言うと、響は「間に合うな」とつぶやく。それから咲のパソコンに、体を伸ばして手のひらを当てた。

しばらくそのまま、響は動かない。

なにしてるんだろう、この人。

咲はさっぱり意味がわからず、首をかしげた。

響は手を離すと、咲のパソコンの主電源を入れる。

ポーンと音がして、パソコンが起動した。咲はガリガリという異音を待ったが、何もない。

あれ?

咲は樹のデスクを立って、自分の席へ回ってみる。そしてパソコンが無事に起動してるのを見て、思わず「うそ」と声を上げた。

「どうやったの?」
「別に。時間をおくと起動するのって、よくあることですよ」
「そうなの?」

咲の頭には無数の「?」が浮かんでいたが、いまはとにかくデータが助かったので、自然と笑顔になる。

「早く、サーバーにデータをアップしたほうがいいですよ。またすぐに起動できなくなるかもしれませんから」
「そうよね」

咲は言われた通り、サーバーにデータをアップした。
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