不思議な眼鏡くん
咲は響の手を逃れると、ガタガタいろんなところに体をぶつけながらも、椅子から立ち上がった。胸元を押さえる。
「田中くんのいう通り、今日、田中くんのことばっかり考えちゃって。仕事も手につかなくなるし、朝だって定期忘れちゃった。こんなことじゃ、これから絶対にミスしちゃう。なんでもうまくできるタイプじゃないの。器用じゃないの」
「それに、やっぱり、こういうの。田中くんは趣味だろうけど、趣味にわたしはできないの。いつかは、好きなひとと、したいから」
そう勢いよく言ってから、はっと我にかえった。
とんでもなく恥ずかしいことを告白してしまった。
わたし、後輩になんてこと。
「芝塚課長は、結婚してるよ」
響は床に座ったまま、咲を見上げる。
「知ってる」
「不毛だな、それ」
「わかってる。でも、見るだけなら、仕事に支障はでないから」
響は黙りこんだ。視線を咲から外して、彷徨わせる。
それから「了解」と答えた。立ち上がり、机の上のジャケットを手に取り羽織る。襟を正して、ネクタイを締め直す。
「鈴木さんにはもう、手を出しません。すみませんでした」
カバンを抱え、背を向けた。
「お疲れ様でした」
そのまま営業部の部屋を出ていく。
なんでだろう。その背中から目が離せない。
上司として、先輩として、当たり前のことをしただけなのに。
どうしてか、彼をひどく傷つけてしまったような気がした。
「田中くんのいう通り、今日、田中くんのことばっかり考えちゃって。仕事も手につかなくなるし、朝だって定期忘れちゃった。こんなことじゃ、これから絶対にミスしちゃう。なんでもうまくできるタイプじゃないの。器用じゃないの」
「それに、やっぱり、こういうの。田中くんは趣味だろうけど、趣味にわたしはできないの。いつかは、好きなひとと、したいから」
そう勢いよく言ってから、はっと我にかえった。
とんでもなく恥ずかしいことを告白してしまった。
わたし、後輩になんてこと。
「芝塚課長は、結婚してるよ」
響は床に座ったまま、咲を見上げる。
「知ってる」
「不毛だな、それ」
「わかってる。でも、見るだけなら、仕事に支障はでないから」
響は黙りこんだ。視線を咲から外して、彷徨わせる。
それから「了解」と答えた。立ち上がり、机の上のジャケットを手に取り羽織る。襟を正して、ネクタイを締め直す。
「鈴木さんにはもう、手を出しません。すみませんでした」
カバンを抱え、背を向けた。
「お疲れ様でした」
そのまま営業部の部屋を出ていく。
なんでだろう。その背中から目が離せない。
上司として、先輩として、当たり前のことをしただけなのに。
どうしてか、彼をひどく傷つけてしまったような気がした。