不思議な眼鏡くん
席に戻ると、響がちょうど営業に出るところだった。

「行ってきます」
平坦な声で言う。

「今日はどこ?」
「プラントの本部です」

『プラント』という会社は、全国にショッピングモールを展開している。そこの出店を担当している森田副部長は、気難しいで評判だ。

「森田さんのところ?」
「そうです」
「わたしも行くわ」

咲はそう言って、カバンを持った。

「一人で大丈夫ですよ」
響はほのかに拒絶の色合いをにじませながら、そう言った。

「田中くんが『プラント』の担当になって半年ほどだもの。ちょっとどんな感じが知りたいから、一緒に行くわ」

強い口調に折れたのか、またもや無感情な声で「わかりました」と頷いた。
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