不思議な眼鏡くん

「あのさ」
樹が話しかけてきた。

「うん?」
「お前、男できた?」

咲はその突拍子のない質問に、思わず「なにいってんの」と声を上げた。

「いや、最近、雰囲気変わったし。そうかなって」
樹がごく気軽な感じでたずねた。

「そんな暇ないし」
咲は首を振った。

「そっか。まあ……そうだよな。お前だもん」
樹は軽く笑って、肘かけに頬杖をついた。「ほっとした」

ほっとした?

咲はその言葉の意味がよくわからない。

なんで?

「お前に、いろいろ先を越されるのは、同期としてつらいからな」
樹が言った。

「またそんな、意地の悪い言い方」
咲の出世が樹より早いことが、そんなにも嫌なんだろうか。咲は思わず顔をしかめた。

樹は黙る。それから「俺、小さいな」とつぶやいた。

「言いたいことは他にあるのに、気が小さいから余計なことばが口から出る」
樹が真剣な顔で反省しているので、咲は「大丈夫。そんなの、わたしもよくあるし」と慰めた。

「まずったなって思ったら、次、気をつけるしかないんだよね」
「……だよな」

樹はそう言って、柔らかく笑った。

そういえば、出会った頃の樹はこんな感じだった。本当はきっと、優しい人なんだ。
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