不思議な眼鏡くん
芝塚課長は書類を目の前に広げた。

「これ、うちの課の売り上げ。鈴木のチームは飛び抜けて右肩上がりだ。この間の件を差し引いても、上はすごく評価している」

「ありがとうございます」
咲は頭を下げた。

「今、鈴木のチームは「SHE’s」ブランドの担当だ。うちのメインブランドで、認知度も高い。このまま行っても、安定した売り上げを出していけるだろう」

「はい」
咲は何を話されるのかまだわからない。どうやら東洋百貨店の件ではなさそうだ。

「だからこそ、鈴木のチームに新しいブランドを担当させたらどうか、と上に提案してみた」
芝塚課長が言った。

「え」
咲は驚いた。新ブランドを担当するのは、いつも営業一課のチームだったからだ。

びっくりした咲の顔を満足そうに見つめて、芝塚課長は身を乗り出した。

「ゼロからの開拓になる。得意先もこれまでとまったく違う。鈴木ならやれると思うんだけれど、どうだろう」

「はい。もちろんです」
とっさにそう答えた。

ずっと仕事で認められることを望んで、走ってきた。
脇見をせず、ただまっすぐ。
この目の前の男性に認められることだけを望んで。

「そう言うと思った」
芝塚課長が破顔する。その顔に咲の胸がドキンと跳ね上がった。

「じゃあ、早速これ」
芝塚課長が書類の束を差し出した。「忙しくなるぞ」

「ありがとうございます」
咲の頬に笑みが広がる。芝塚課長も嬉しそうに微笑んだ。
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