不思議な眼鏡くん
「西田さんと、電車の中で何を話してたんですか」
ちづがたずねた。

「くだらない話だよ」
「仲がいいですよね」
「そう?」
「横山さんは、田中くんと何喋ってたの?」

つい、聞いてしまった。聞かなくていいことなのに!

咲は心の中で頭をかきむしる。

「普通です。趣味とか、そんな話」

趣味……。

響の趣味を思い出して、咲の息が一瞬止まる。

まずい。呼吸して、わたし!

そんな咲の様子に気づかず、ちづは話し続ける。

「田中くん、正直何考えてるかわかんないけど、普通に喋るし、意外と面白いこと言ってくるし。結構、アリな感じだな、と最近思ってて」

「アリって?」

ちづがポンとベッドの上で飛び跳ねる。
「男としてアリってことですよ」

「そうなの?」
咲は驚いて聞き返した。

だって、会社じゃずいぶん地味にしてるのに。

「この間ご飯いったとき、前髪を右手でかきあげたんですよ。その仕草が、なんていうんですか、色っぽいっていうか」
ちづが楽しそうに言う。

「いつも前髪で目が見えないじゃないですか。うっとうしいですよね、あれ。でも髪をあげたら一瞬目が見えて。割といいんです」

「今日、メガネとってやろうと思って。せっかくの温泉だし、チャンスとかありそう」
ちづが意気込んでいる。

咲は黙りこんだ。

もしかしたら、この二人、趣味が合って。
今夜、ちづが部屋に帰ってこなかったら。

咲の胸が急に痛み出した。
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