不思議な眼鏡くん
せっかくの広いお風呂に入っても、いつもは話す機会のない同期と久しぶりにおしゃべりをしても、咲の頭の中はぐるぐるしっぱなしだ。

響とちづが、並んで歩いているところを想像してしまう。

趣味の話って、やっぱりあの話かな。
旅行だし、気も大きくなって、一緒に趣味極めようってこともあり得る。
いやいや、気にしちゃだめだって。

夕方五時。浴衣を着た咲は、宴会場に着いた。

大きな畳張りの一続きの空間に、お膳が並べられている。営業二課の席は右手にひとまとめだったが、座席は指定されていない。

響とちづは当然といったように、並んで座っていた。まだ二人は浴衣を着ていない。

楽しそうだな、横山さん。

彼女の笑顔を眺めながら、咲はどこに座ろうかと座席を見回した。

すると、後ろから樹の声。

「ここ、座るか」
「うん」

咲と樹は、響とちづとは少し離れた席に、並んで座った。

「いいお湯だったね」
「ああ」

同じく浴衣を着た樹が、左隣であぐらをかく。ほのかに石鹸の香りが漂った。

「お前、外行った?」
「ううん」
「あとでお土産、買いに出ないか?」
「いいよ」
咲は頷いた。

「ここ、いいか」
芝塚課長が、咲の右を指差した。

「どうぞ」
浴衣姿の芝塚課長は、安定のかっこよさ。お風呂上がりでちょっと上気している頬も素敵だ。

「おい、見とれんな」
樹が咲に耳打ちする。

「見とれてないって」
咲は笑って返した。

同期とのなんでもない会話にホッとする。響とちづの二人を視界の外に出すのには、誰かと喋り続けていなければならないから。

そうじゃなきゃ、すぐに視線を送ってしまう。
響の姿を確認したくなる。
なんでかな……。
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