不思議な眼鏡くん
「やっぱり」
無言が耐えられなくて、つい余計なことを言ってしまう。

「やっぱり、田中くんはメンタリストになる勉強でも、してるんでしょう」

瞳をそらさず、響は笑う。
「また、言ってる」

「だって」
咲の頭が、駆け巡る血液でぼんやりしてきた。

「じゃあ、どうしてこんなに、田中くんを目で追っちゃうんだろう」

響がこちらを見た。

「こんなのおかしいもの。きっと人を操れる人なんだと思うわ」

自分で言いながら、訳がわからない。

誰か説明してほしい。
この人が触れると、自分が爆発しそうになってしまう。
その理由を。

「俺……」
咲の手のひらを強く握る。

「鈴木さんには、何もしてない」
響の唇に、笑みが広がる。

周りの音が、ボリュームを絞るみたいに、あっという間に引いていった。
静かな中に、二人だけでいるよう。

ただ、自分の心臓の音だけが、聞こえている。

響が手を離し、咲のまとめた髪を、長い指で触った。
「冷たい」

髪にも、神経は通っているのかもしれない。指の感触が伝わって、背筋がぞくっとする。

そのまま両手で頬を包まれた。
暖かくて、気持ちいい。

「忘れないでほしい」
「俺を思い出すときは、笑顔でいて」

あ、唇が触れる。

咲は目を閉じた。
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