不思議な眼鏡くん
営業部の奥、一番突き当たりに、五畳程度の小さな資料室がある。中に入ると棚が天井まであって、かなりの威圧感だ。

咲は蛍光灯を点けると、「招待状・サンプル」と書かれた棚を開いた。

「わあ、すごい。すごく昔のまである」

紙は色あせているが、趣がある。昔はデザイン会社に発注していたのかもしれない。今は営業部内でテンプレートを使いまわしている。作業は効率化されたけれど。

「なんか、つまんないかも」
咲は思った。

「鈴木?」
開け放していた資料室の扉から、樹が顔を出した。

「おかえりなさい」
咲は資料を片手に振り返る。

「招待状?」
樹が資料室にはいってきて、咲の横に立ち、手元を覗き込む。

「素敵でしょう、昔の。文面もおしゃれ」
「今は、ブランド定型のカードに印刷するだけだからな」
「……今回、変えられないかなあ」

咲が言うと、樹が「コスト考えろよ」と笑った。

「あ、そういえば。田中くんって、デザイン科卒業じゃなかったっけ? どうして営業来たのかなあって、記憶があるの。相談してみようか」

咲が言うと「あいつ?」と樹が吐き捨てるように言った。

「やるわけないじゃないか、あいつ。そんな余分な仕事」

確かに。
あからさまに嫌そうな顔をしそう。

「無気力だし、何考えてるかわかんないし、それなのに営業成績がいいって、ちょっとおかしいよ。あいつなんか、やばい手使ってるんじゃないか?」

吐き捨てるように言ってから、樹は「……ダメだ、これ」とつぶやいた。

咲は手元の資料から目をあげて、いつきを見上げる。

「どうしたの?」
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