不思議な眼鏡くん
夜九時。
文面を考えて、上の許可をもらい、いよいよ印刷。

棚からカードを出して、営業二課のプリンターにセットした。

営業部はだいたいの社員が帰宅かもしくか直帰で、そろそろ静かになる。樹は接待があり定時にあがり。ちづは外から『直帰します』と連絡があった。

響はまだ隣にいる。

「まだ残る?」
咲は響に声をかけた。

「帰ったほうがいいなら、帰ります」
冷たい声が返ってきた。

「そういうわけじゃないけれど」
咲は居心地が悪い。

伊香保でのあれはなんだったんだろう。

『忘れないでほしい』
『俺を思い出すときは、笑顔でいて』

今、冷静になって考えると、どういう意味かさっぱりわからない。

ああもう、頭がごちゃごちゃする。西田くんは、わたしのことを好きだっていうし、わたしはこの隣りの危険人物が好きだって思っちゃってるし。

年下で、部下なのに。上司失格でしょ。
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