不思議な眼鏡くん
咲は書類を机に出すと、引き出しの奥に手を入れた。

さっきちぎれた書類をこの中に入れたはず。

でもいくら掘り返してもでてこない。引き出しに押されて中で丸まってるのかもしれないと、とうとう引き出しを引っ張り出した。

「何してるんですか、主任」
響は、膝をついて引き出しと格闘している咲を見下ろし、無表情な声で尋ねる。

「……探し物……」
咲は混乱した頭で答えた。

「お手伝いしましょうか」
響が席を立とうとしたので、咲は思わず「いいのっ、大丈夫だから」と手で制した。

響は「そうですか」とあっさり引き下がり、再びパソコンに体を向ける。

ない。さっきの細切れ書類が見当たらない。どういうこと?

「ねえ、だれかわたしの席に来た?」
咲は立ち上がり、チームの三人を見回す。

「いえ、だれも」
ちづが首を振った。

咲はどっと疲れて、椅子に座り込んだ。

わたしの勘違いだったんだろうか。この引き出しに入れたつもりが、無意識に捨てちゃったとか。まあでも……要望書が細切れになったんじゃなくて、本当によかった。

咲は胸をなでおろした。これで芝塚課長を失望させなくてすむ。

咲は背筋を伸ばし、新しいブランドに関する書類に手を置いた。

「みんな、新しい仕事が始まるわよ」
そう言った。
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