不思議な眼鏡くん
印刷を終えたのは十時。
ちらっと横を見ると、響はネットでニュースを閲覧している。

もしかして、終わるの待ってるのかな。

そんなことを考えて、咲はまたもや自分が恥ずかしくなってきた。自分のダメさが際立つ。

この人の前だと、ちゃんとした大人でいられない。

束になったカードをトントンと机で揃えて置いた。

「終わりました?」
響が尋ねた。

「はい」
フランクに話したいのに、どうにもぎこちなくなる。

「じゃあ、帰りましょうか」
響はパソコンをシャットダウンした。

コートが必要な季節。山手線のホームは風が強く、冷たい。グレーのチェスターコートの襟がスースーした。

マフラー、してくればよかった。

たくさんのラインが乗り入れている駅なので、ホームはすごく混んでいた。咲のすぐ横に立つ、響を見上げる。

響は薄手のトレンチをきて、マフラーをしていた。細いシルエットが連立するビルの夜景の前で、どこかのファッション誌のよう。

風が吹いて、前髪が時たま持ち上がる。

この人は、会社ではなぜ目立たないようにしてるんだろう。
本当はごく普通の青年のように、軽口もたたくし、声を出して笑ったりするのに。
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