不思議な眼鏡くん
大きな通りの街路樹に、青と白のライトが光っているのが、目に入る。

「クリスマスのイルミネーション、もう飾られてるんだね」
咲は流れるブルーのラインに心を奪われた。

「きれい」

「鈴木さん、クリスマスの予定は?」
響が、咲にだけ聞こえるぐらいの小さな声で尋ねた。

「仕事、です」
「終わったら」
「……特には」

「見に行く?」
響が尋ねた。

「イルミネーション、行く?」

咲は黙った。

あまりにも脈が早くなっていて、今すぐ倒れてしまうんじゃないかっていうぐらい、ドキドキしてる。

「それは、誰と?」
声がかすれた。

「鈴木さんと」
「他には?」
「誰も。二人で」

咲は恐る恐る顔を上げた。響の瞳を見る。

冗談を言ってるのかな?

「俺も、予定がないから」

すぐ近くに響の顔があった。「もし、よければ」

頷いちゃだめ。この人は部下で後輩で。好きじゃなくても、趣味で誰かとそういう関係になれる人。仕事のことを考えたら、絶対に頷いちゃだめ。

「仕事が、早く終わったら」
咲の頭とは正反対に、口がそう言っていた。

「よかった」
響の唇に笑みが広がる。

ホームに電車が滑り込んだ。この駅で咲は降りる。

響が咲の耳に唇を近づけた。多分、触れてる。咲の耳に唇が。

「たのしみだね」
扉が開く瞬間、ホームの雑音と重なって、響の声が聞こえた。
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