不思議な眼鏡くん
「もしかして、西田さんですか?」
ちづが、いたずらっ子のような目で尋ねる。

「西田くん?」
咲は驚いて首を激しくふった。「違うよ」

「そうかあ。西田さん、たぶん鈴木主任のこと、好きですよね。ちょこちょこ意地悪言うし」

ちづの観察眼に、咲は心底びっくりした。当人はまったく気づいていなかったのに。

「じゃあ、鈴木さんを変えたのは、誰なんだろう」
ちづは首をちょっと傾げた。

「もし、の話なんだけど」
咲は、少し声のトーンを下げた。

「もし、相手が遊びだと知ってても、自分が好きなら、なんていうか、そういうこと、してもいいと思う?」

ちづはその質問を聞くやいなや、パッと目を輝かせた。それから「えー」と眉をひそめる。

「鈴木さん、遊ばれてるんですか? あのキスマークの人に?」

咲は聞いたはいいが、とたんに恥ずかしくなってきた。

「遊ばれては、まだ、いないんだけど。でも、その、一度拒否をして、それで」

だんだん、話が支離滅裂になってくる。
「遊びは、嫌だったし、私も別に特別に思ってなかったから」

「はーん」
ちづが頷いた。「拒否した後、彼を意識し始めたってことですね。やー、ときめく、それ!」
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