不思議な眼鏡くん
咲は顔が赤くなるのがわかった。パスタが喉を通らなくなりそうだ。

「向こうが遊びっていうのは、確定なんですか?」
「そう……だと思う。女の子とそういうことするのが、趣味だって」

ちづが「さいてーっ」と声を上げた。

「ちょっと、声が大きいって」
咲はちづの口を押さえたくなった。

「でも、鈴木主任は、遊びでもしたいって、そう思ってると」
ちづが言った。

そう断言されると、自分がすごく愚かな気がしてくる。

しかも、初めてだし。

「やっぱり、馬鹿だよね、そんなこと。もっと自分を大切に……」
咲は穴にでも入りたいくらい、恥ずかしくなった。

「いいんじゃないですか?」
ちづがパスタを一口、口に入れる。

「いいの?」
「だって、したいんですよね?」

面と向かって言われると、どうにもいたたまれない。

「はあ、まあ」
「苦しいとは思いますけど。でもきっと、いい思い出になります。思い出にする覚悟があるなら、ぜったい気持ちのままに、進んだ方がいい」

『思い出にする覚悟があるなら』

咲の胸に痛みが走った。

そうか。
未来を求めないなら、それは幸せな時間になる。

「横山さん、スゴイ」
咲は感嘆した。「先生って呼びたい」

「この歳になると、いろいろ経験するじゃないですか。そんな特別スゴイ意見なんかじゃないですって」
ちづは笑って、パスタを口に入れた。
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