不思議な眼鏡くん
「いいことだと思うけどな」
樹はそう言って、しばらく黙る。廊下で二人気まずい感じで立ち尽くした。

「あのね」

樹の気持ちには応えられない。早く伝えておくべきだった。

「あー、なんかまずいこと言おうとしてる?」
樹は泣いているような顔で笑う。

「そういうのは、改めて聞くよ」
努めて軽い感じで、そう言った。

咲は再び黙る。

「クリスマス、仕事のあと予定あんの?」
樹が尋ねた。

予定があるって、言った方がいんだろうか。でも樹の表情を見ていると、なんだか憚られる。

「もし、予定がないなら、そんとき聞かせて。でも、非常識かな、クリスマスなんて」
「ううん」

咲は思わず首を振った。それから慌てて「お互い、仕事が早く終わったら」と言った。

「オッケー」
樹は頷くと、営業部へと入っていった。

咲は「しまった」と思ったが、あとの祭り。

大きく肩を落とした。
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