不思議な眼鏡くん
「鈴木さん」
後ろから響が声をかけた。「休憩ですか?」
「ちょっと飲み物を買おうかと思って」
咲は財布を握りしめて、うつむく。
「クリスマス、六本木でいいですか?」
響が尋ねた。
「……田中くん」
咲は意を決して、口を開いた。
「その日、田中くんに会う前に、一件予定を入れていい?」
「予定って?」
「人と、会う」
「誰?」
「西田くん」
咲が言うと、響は合点がいったような顔をした。
「へえ」
「ごめん、ちょっと断りきれなくて。でも話は短いし、だから」
「どっち?」
響が言った。
さっきちづを遠ざけたときの冷たさよりも、さらにずっと冷たく痛い。
「予定を二つ入れるのは、マナー違反」
「わかってる、本当にごめんなさい」
「選んで、今」
「俺と、西田さん、どっち?」
咲はぐっと詰まった。
『田中くんがいい』って言ってしまったら、好きだって告白してるようなものだ。そんなこと、知られるわけにいかない。
「選べない?」
響は肩をすくめて、咲に背を向けた。振り返らず、歩いていく。
咲は、悲しくなった。悲しいどころじゃない。もうどん底だ。
パタパタと涙が廊下に落ちるのが見えた。
「恥ずかしい。この歳にもなって」
咲は手のひらで涙をぬぐう。
「……もう、やだ」
咲はつぶやくと、給湯室へと入っていった。
後ろから響が声をかけた。「休憩ですか?」
「ちょっと飲み物を買おうかと思って」
咲は財布を握りしめて、うつむく。
「クリスマス、六本木でいいですか?」
響が尋ねた。
「……田中くん」
咲は意を決して、口を開いた。
「その日、田中くんに会う前に、一件予定を入れていい?」
「予定って?」
「人と、会う」
「誰?」
「西田くん」
咲が言うと、響は合点がいったような顔をした。
「へえ」
「ごめん、ちょっと断りきれなくて。でも話は短いし、だから」
「どっち?」
響が言った。
さっきちづを遠ざけたときの冷たさよりも、さらにずっと冷たく痛い。
「予定を二つ入れるのは、マナー違反」
「わかってる、本当にごめんなさい」
「選んで、今」
「俺と、西田さん、どっち?」
咲はぐっと詰まった。
『田中くんがいい』って言ってしまったら、好きだって告白してるようなものだ。そんなこと、知られるわけにいかない。
「選べない?」
響は肩をすくめて、咲に背を向けた。振り返らず、歩いていく。
咲は、悲しくなった。悲しいどころじゃない。もうどん底だ。
パタパタと涙が廊下に落ちるのが見えた。
「恥ずかしい。この歳にもなって」
咲は手のひらで涙をぬぐう。
「……もう、やだ」
咲はつぶやくと、給湯室へと入っていった。