不思議な眼鏡くん
ビルの外に出て、濃紺の空を見上げた。高層ビルの窓にはまだ明かりがたくさん灯っている。白い息が登っていくのが見えた。

「寒いね」
「ビル風があるからな」

咲と樹、二人は並んで歩き出す。

「飯、食わない?」
樹が尋ねた。

「う……ん」
咲は響のことが気がかりで、生返事しか返せない。

「田中に任せた仕事のこと、気になってるのはわかるけど、今だけは俺のこと考えてくれる?」
樹がそう言って、初めてはっと気がついた。

今、他の人のことを考えるなんて、失礼だ。

「ごめんなさい」
「いいよ。飯、付き合って」
樹は諦めたような顔で笑った。
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