不思議な眼鏡くん

この時間だと、まだギリギリ正面玄関が開いている。照明の消えたエントランスを走り抜け、エレベーターのボタンを押した。

はあはあと肩で息をする。頬は冷たいのに、額から汗が流れ落ちた。

エレベーターで三十二階に上がる。いつもはそんなことを考えたこともないのに、今日はエレベータがいやに遅い気がしてイライラした。

ポンと音がして、扉が開いた。

シンと静まり返ったフロア。エレベーターを挟んで広がるオフィスに、もう明かりはなかった。咲は乱れた呼吸のまま、エレベーターを降りる。

もう、いない。

咲は俯いて、目を閉じた。腰に手を当てて、呼吸を整える。

遅かったんだ。それはそうだ、もう十一時近いし。クリスマスだもの。

咲は人気のない廊下を歩いて、営業部のガラス戸を引っ張った。

あ、開いてる。

最後の人は鍵を閉める決まりになってるのに、まだ戸締まりされていない。

誰かいるんだ。

咲は扉を開いて、中に足を踏み入れた。

真っ暗な中に、ぽつんと一つモニタの明かりがついている。

響のデスクだ。でもそこに響の姿はない。

咲は響のデスクまで歩くと、モニタを覗き込む。お願いした仕事は終わっていた。
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