不思議な眼鏡くん

六本木の坂の両脇には、無数の青い光が灯っていた。

「わあ、きれい」
咲は思わず感嘆の声をあげた。

テレビのニュースで見たことはあったけれど、実物は格段に違う。感動の波が押し寄せてきて、咲の目が思わず潤んだ。

たくさんのカップルたちが、手をつなぎゆっくりと道を歩いていく。それぞれ幸せそうに、顔を寄せて笑っている。

咲は隣の響を見上げた。

ふわふわの前髪がブルーに染まって、どことなく未来的。

「ありがとう」
咲は言った。

「初めて、イルミネーションを見に来た。毎年気にはなってたけど、仕事が優先だったし、一人だったし」

咲は連なる青い光に目を移す。
「こんな景色、忘れられないな、きっと」

響は突然立ち止まった。

「どうしたの?」
咲も立ち止まる。

響が咲の手を取った。

胸が大きく一つ跳ね上がる。

「冷たい」
咲の指を握りしめながら、響は言った。そのまま咲の指に唇をつける。

暖かさがジンと伝わって、咲の背中がゾクッと震えた。

「これから、俺の家に来る?」
暖かい呼気が指に当たると、今にも倒れそうになる。

「それは、あの」
咲の心臓はもう、壊れる寸前というほどばくばく動いている。

「だって……」
しどろもどろになった。

「来ない理由はある?」
響は咲の指を離し、代わりに腰を引き寄せる。

「理由は……いろいろ、あの」
顔が紅潮しているのがわかった。

「ないよね、たぶん。だって今はもう、初めては俺がいいって、思ってる」

響は咲の冷えた頬に手を差し入れて、顔を近づけた。

「していい? キス?」

咲からは声が出てこない。もう今にも気を失いそうに緊張している。

「ほら、逃げて。俺との境界線をこのままにしたいなら」

唇が触れそう。

「逃げないの?」
響がうっすら笑った。「じゃあ、今夜、抱いていいってことだよね」

そして、キスした。
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