不思議な眼鏡くん
大丈夫、思い出にできる。

咲は靴を履くと、最後にもう一度振り返った。

リビングの入り口のところで、響は腕を組んで立っている。リビングの太陽光が、響の頬を白く照らす。

「じゃあ……」
「ここに女の子入れたの、初めてだよ」
響が唐突にそう言った。

「あのベッドで抱いたのは、鈴木さんだけ」

響が手をあげる。
「鈴木主任、おつかれさまでした」

響は背を向けてリビングへと戻っていく。
咲は玄関の扉を開けて、外へ出た。

大きく深呼吸。

ドキドキしていた。
寂しくて、悲しくて、それでいて少し混乱していた。

『あのベッドで抱いたのは、鈴木さんだけ』

なんであんなこと言ったの?
言う必要なんか、ないのに。
わたしを無駄に期待させるだけなのに。

なんであの人は、あんなこと言ったの?
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