不思議な眼鏡くん

一月も半ば。
咲のチームに、正念場がやってきた。
新ブランドのファッションショーがあるのだ。

このファッションショーはメディアにも流れるし、イメージモデルがランウェイを歩くことになっている。

店舗拡大のチャンスだ。

新ブランドに関わるあらゆる部署が、一丸となって望む。営業ニ課にも力が入っていた。

有楽町の大きめなショースペース。空を見上げると、今にも雪がふりそうなどんよりとした曇り空。
「どうかふりませんように」
咲は小さな声で祈った。

広い会議室に入ると、ハンガーに吊るされたたくさんの衣装。化粧をするための鏡がずらっと並べられている。

続々と長身のモデルが入ってきた。新ブランドはティーンを対象としているため、若くてハツラツとした感じの子が多い。ヘアメイクが始まった。

「鈴木さんっ、座席の確認お願いします」
ちづが走ってきた。

「はい」
咲は書類を受け取ると、チェックする。

「西山デパートの榊様、確かお二人でいらっしゃるって伺ってたはずだけど」
「あっ、そうでした。すみません、もう一席確保してきます」
「あとこの位置、カメラが入るんじゃないかな。お得意様だから、もっと見やすいところに変えてあげてほしいわ」
「はい」
「でも、広報とも確認してね。動かせないものがあるかもしれないから」
「はい」

確認を済ませると、ちづがまた走り出そうとするので「横山さん、落ち着いて。大丈夫だから」と背中に声をかけた。

ちづがはっと立ち止まり、それから頭を下げた。一つ息を吐いて、しっかりした足取りで歩き出す。

仕事は山積みで、追われているような気分になるが、こんな時こそ落ち着かなきゃいけない。
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