一匹少女が落ちるまで
「すげぇー楽しかったよ」
理央がそう言ってくれて、心があったかくなる。
「そう。ありがとう。そう言ってくれたら2人も喜びます」
「紫月…家だとすごく楽しそうだな。よかった」
「えっ?」
理央が突然、私の頭に手を置きながら優しい笑顔でそう言う。
この顔は嘘をついている顔じゃないけど。
すごく。
すごく寂しそう。
「紫月が強い理由がわかったよ。帰る家がちゃんと紫月の居場所になってるからだな」
「え?」
「なんでもねー」
理央はそう言って、私の頭をくしゃくしゃっとした。
「うっ…い、いつでも来てください。みんなすごく喜ぶと思う。特に双子たちは」
私がそう言うと、理央は顔を隠すようにしてパッと私から目をそらした。
なんか…理央の耳が赤い…。
「雨宮、そう簡単に男を家に上げない方がいいぞ」
「…え?」
黙って一部始終を見ていた赤羽くんはそう言うと、「それじゃ、ごちそうさま」と言ってから、隣の理央の手を掴まえて、振り返ってから歩き出した。
今の理央の反応と、赤羽くんのセリフ。
全然意味がわからなくて、私は2人の背中が見えなくなるまで、ただずっと立っていた。