一匹少女が落ちるまで


「すげぇー楽しかったよ」


理央がそう言ってくれて、心があったかくなる。


「そう。ありがとう。そう言ってくれたら2人も喜びます」


「紫月…家だとすごく楽しそうだな。よかった」


「えっ?」



理央が突然、私の頭に手を置きながら優しい笑顔でそう言う。



この顔は嘘をついている顔じゃないけど。


すごく。


すごく寂しそう。


「紫月が強い理由がわかったよ。帰る家がちゃんと紫月の居場所になってるからだな」


「え?」


「なんでもねー」


理央はそう言って、私の頭をくしゃくしゃっとした。



「うっ…い、いつでも来てください。みんなすごく喜ぶと思う。特に双子たちは」



私がそう言うと、理央は顔を隠すようにしてパッと私から目をそらした。


なんか…理央の耳が赤い…。


「雨宮、そう簡単に男を家に上げない方がいいぞ」


「…え?」


黙って一部始終を見ていた赤羽くんはそう言うと、「それじゃ、ごちそうさま」と言ってから、隣の理央の手を掴まえて、振り返ってから歩き出した。




今の理央の反応と、赤羽くんのセリフ。



全然意味がわからなくて、私は2人の背中が見えなくなるまで、ただずっと立っていた。



< 140 / 487 >

この作品をシェア

pagetop