一匹少女が落ちるまで
「…え?」
紫月の安定した声に、俺はそう言って顔を上げる。
「結構落ち着きますよ、この中」
紫月はどうしてこんなにも…。
誰よりも俺のことをよく知っているのは。
やっぱり紫月で。
家での紫月は、本当に幸せそうに笑っていて、親友思いの彼女を見て。
紫月が誰よりも思いやりのある人のはよくわかっていたけど。
「…ごめん紫月、ありがとう」
俺は隣に座った彼女の手を、赤羽にバレないように、優しく自分の左手で包み込んだ。
この手を包んで改めて感じる。
無愛想に見てて誰よりも気遣いの示せる人。
紫月が包まれた手に気づいて少しびっくりした顔をしたのを横目で確認したけど、彼女は包まれた手に何も言わないで、ただ薄く口角を上げた。